暦の上…どころの話じゃあない、
日々の生活の上へもしっかと冬が到来し。
大内裏や都大路に面した市中はともかく、
奥向きまで入り込めばそのまま
貴船や鞍馬、比叡といった
山城の山々へも連なるだろう丘陵の
その始まりと境を接すほど
山野辺間近い場末の辺りともなれば。
根雪の取っ掛かりかもしれぬ雪の白が、
なかなか解けぬまま
野山のあちこちを塗り込め始めてもおり。
極細の笹のような、枯れた茅の根方を埋めて、
涸れた河原から林へと続く雪の道。
結構な寒さだし、
とれる木の実とてないだろ頃合い、
まだ誰にも踏まれてないかと思いきや。
ようよう見なくちゃ判らぬが、
小さな小さな足跡が、
埋まりそうになっての点々々と続いている。
土も落とさぬ小ささで、
それでの目立たなかった足跡は二対あり、
指を数えられる直接の足型、
さては獣の仔だろうかと追うように辿ってみれば、

　　あらあら不思議ふしぎ

途中から、ワラ靴だろうか履いたよな、
人の足跡へと変わってゆくじゃあないかいな。
どこだどこだと追ってみりゃ、
葉っぱのすっかりと落ちた木々の向こう、
少しほど開けた広っぱで、
小さな影が二つほど、まだまだ薄化粧の雪の中を、
よてちよてちと駆け回っておいで。

　「こおたん、しゃじゃんかvv」
　「しゃじゃんか？」

常緑の堅い葉を茂らせたサザンカの茂みの根元から、
鮮紅色の花びらを拾い、はややぁと感にいる幼子がおり。
連れの、同じくらいの小さな和子へ、
ほらと見せる所作がまた愛らしい。
二人とも
小袖と袴の上へ
綿入れだろう厚絹の袷をまとっているし、
ふわふかな感触だろうこと、
見ているだけでもやすやすと感じさせるよな
ふっくら真ん丸な頬を嬉しそうにほころばせ。
明るい陽だまりの中、
ちんまりとした可愛い尺の動作にて、
それぞれにぴょこたんちょろちょろと、
快活闊達に動き回る様は、
もっとずっと小さな小動物の仔を思わせて愛くるしいばかり。
花のままも同然で落ちたらしい大きなサザンカを見つけ、
覚束ぬ所作にて拾い上げ、陽に甘く暖められた髪へ乗せ、

　「きえい？」

誰に教わったのだか、
かっくりこと小首を傾げてそんなことを訊く坊やへ、

　「う、くうたん きえいvv」

こちらもまた やはり誰に教わったんだか、
小さな両の手をパチパチパチと叩いてはしゃぐお友達だったが、

　「…はや？」

そんな足元に、ちかりと光った何かがあって。
何だ何だと小柄な身をお団子みたいに丸め、
小さなお手々で危なっかしくも摘まみ上げたは褐色の団栗。
今時分に落ちるはずはなく、
雪の上に転がっていたのも妙なもの。
さてはリスが運ぶ途中で落としたものかも…と、
大人であればそれで納得して終しまいだが、

　「どんぐぃvv」

お子様には思わぬ宝物だったようで、
お顔の前へとかざして“ほら”と呼ばわれば、
さざんかを見せてくれたお友達が、
やはり“わあ”とお顔をほころばす。

　「こおたん、どんぐぃvv」
　「う、どんぐぃ♪」

キラキラね、う、キラキラよと、
ただそれだけなのに きゃいきゃいはしゃぐ無邪気な和子らに、

　　「♪♪♪♪」

冷酷非情な風貌にして、精悍なはずの口元を、
ともすりゃ やにさがってのほころばせ、
いつまでも飽かず見守る大人が 約一名。

　「…背中が隙だらけなんだがな、大妖さんよ。」
　「うっせぇな。此処は自分チも同然なんだ、余裕だ余裕。」

無論のこと、
そんな美味しい大背中を見過ごすもんですかいと。
端正な刺繍を施してあるのは二の次、
丈夫で暖かいからと履いて来た沓の底にて
自分から“大妖”と呼ばわった相手を
うりうりと容赦なく踏みにじりつつのお声をかけてる
恐れを知らない術師の青年こそは、
近隣のあばら家屋敷に住まう神祗官補佐殿であり。

　「お前ね、
　　そのうち俺だって怒って祟っちゃうよ？」

　「俺は（別に怖くないから）構わんが、
　　そんなしたらば くうが怒るぞ？」

　「う……。」

相変わらずの相性でのやり取りの後、

　「なあ、あれどっちかくれないか？」

そんなとんでもないことを言い出す方も方ならば、

　「ばーか。俺んじゃねぇしどっちもウチの子だ。」
　「何か矛盾してねぇか、それ。」

お館様にしたって、
やっぱり親ばかには違いないと思う人、手を上げて。




　　　〜Ｆｉｎｅ〜　　13.01.01．

　　＊新年最初のお話がこれってどうよ…ですが、
　　　入院中に、院内保育のおチビさんたちが
　　　きゃわきゃわ無邪気に中庭駆け回ってたのを、
　　　毎日のように眺めてたもんで つい。
　　　結構寒かったはずですのに、まあまあお元気でしたもんで。
　　　結局、暑い日も寒い日も付き合わされる親御が大変なんでしょね。
　　　子育ては体力だなぁ、うん。（何の話だ）

　めーるふぉーむvv 　

or ＊